映画の中の花「Honey Roasted Chicken」続き
皆様、こんにちは!
新年度、4月のスタートを迎えましたね♪桜の咲く頃は毎年入学式の壇上花のお花の御用命を賜ることも多く、私たちも気持ちが引き締まる思い出おります。新しい門出を迎えた方、新社会人・新入生の皆様、おめでとうございます。
さて、本日は、先日のBlogの続き、映画の中の花「Honey Roasted Chicken」について投稿したいと思います。
短編映画「CITIZENs」は2025年カンヌ国際映画祭批評家週間、中編・短編部門の最終選考まで進むことが叶いました。あいにく最終選考段階での落選、ノミネートとはなりませんでしたが、この映画はこれから世界中の映画祭に旅立っていきます。制作陣の一人として新しい門出というか、ステージが変化していくことに嬉しさを感じる今日この頃です。
「CITIZENs」に関してはまた次の機会に触れるとして、今回は、短編映画「 Honey Roasted Chicken 」より、私たちにとって花を用いてデザインするということはどういうことなのか、戦地に花を生けることの意味や、最後にSpecial thanksとして、今回「Honey Roasted Chicken」の撮影現場に入ってくれたみんなへのメッセージを書いてみました♪
長文のブログにはなりますが、ぜひお読みいただけたら幸いです。
1.私たちにとって花を用いてデザインするということとは
2.なぜ細部まで可視化する必要があるのか?
3.花に込めたメッセージ
4. 戦地に花を生けることの意味 ふるいち監督から「Honey Roasted Chicken」についてのメッセージ
5.Special Thanks
1.私たちにとって花を用いてデザインするということとは
弊社は、花や植物、アートを使って、大型美術のデザインや作品作りを行っております。
花は視認性の高いものです。鮮やかな色合い、そして、花形、1輪1輪の花と茎が織り成すフォルム…花を通じて目から多くの情報を受け取ることができます。花の美しさに心惹かれたことのある方は少なくないでしょう。同じ品種であっても1輪1輪異なる表情を見せてくれるのです。私たちフラワーアーティストは、声なきものの声に常に耳を傾けています。花と会話をするように、手の中で優しく組み合わせていきます。どうしたらこの花々の美しさを最大限に生かすことができるのだろう?そんなことを思いながら制作しております。この花を見てくださる方の心に1輪の花が咲きますように…日々このような思いと共に花や植物と向き合っています。花や植物を用いる時、細心の注意を払うと共に、お花がお客様や私の思いにきっと寄り添ってくれると信頼し、デザインを創り上げていくのです。
私の場合は、デザインを起こすときにはまず、頭の中にイメージが降りてきます。降りてくるというのは、映画のフィルムのように細かいディテールが1コマごとに映し出される様子が頭の中に浮かぶという感覚が一番近いかもしれません。そのイメージをより鮮明に繋ぎ合わせたものが現物の作品ということになります。
創り出したイメージを具現化する工程はとても楽しいものです。心が躍るような楽しさというよりも、どちらかといえばデザインをすることに全集中している時の緊張感、そして、完成したイメージを形にできた時の充実感と喜びというほうが正しいかもしれません。自分が満たされていくという感覚はなく、この制作物が世の中に創られたことに意味があるのだろうか?、きちんと意味のあるものに仕上がっているだろうか?と自分自身に問いかけ、制作物に込めた想いをご鑑賞者様が五感で感じていただけますように…と考えています。
花を用いてプロダクトやインスタレーション、大型作品をデザインするには、そのシーンでお花を使うことの意味から掘り下げていきます。
なぜそのシュチュエーションにおいてお花が必要なのか?花の意味や役割とは?花や植物から何を伝える必要があるのか?
花のデザインに求められている役割はその時々で異なっています。一見全く異なるシュチュエーションやデザインであってもアーティストの中には、共通の認識があります。それは私たちアーティストチームがデザインする制作物は、見ていただく方々にとって価値ある変容をもたらすものであるということです。
ただおしゃれで素敵なだけでは絶対にダメなのです。なんとなく美しく、素敵につくることは誰にだってできるでしょう。もっと言ってしまえば、オアシスというスポンジに花を挿すという作業はお子様でもできることなのです。私たちフローリストは幼児にできることでお客様からお金をいただいているという事実はいつも念頭に置きながら、謙虚に花と向き合ってゆくのです。
プロフェッショナルな仕事とは常に謙虚で今日の自分の技術を明日超えていく努力とひたむきさにあると私は考えています。
私たちは花のプロフェッショナルとして、花の造形的美しさに止まらず、色の持つ視覚的効果や花言葉、そしてナチュラルにより自然な形で、その場にさも存在したであろう景色を作ることに全力を注ぎ、この映画にとって最善の花とは何か?を模索していったのです。
私たちの仕事はデザインをひらめくところから始まります。この「ひらめき」が非常に重要です。この「ひらめく」瞬間がとても楽しいと言えます。
ここで私の言うひらめくとはどのようなことか説明したいと思います。
映画の脚本を読んでいると、私の頭の中では自然と絵が浮かんできます。走馬灯のように必要な花材や色合いや景色が頭の中に情報として降りてきます。頭の中に浮かび上がったパズルのピースを1つ1つ組み合わせていくようなイメージですね。デザインの大枠を組み立てたら細かい部分までより具体的に可視化していきます。これは私個人のやり方ですが、通常はどうやってデザインするのでしょう?
もちろん頭にイメージが浮かんでくる前提には大量のインプットは不可欠です。時々「ぼーっとするときはあるんですか?」と質問されますが、朝起きてから寝るまでぼーっとすることはありません。朝起きたら必ず本や雑誌、SNSを使ってインプット、お店が休みの日は美術館めぐりやトレンドスポットを訪れたり、人気の映画やミュージカルを鑑賞するなど、あらゆる方法で見聞を広めるように努めています。そして作品を通じてアウトプットを繰り返しています。
日常の中で習慣となっているため、辛さや苦しさを感じることもありません。どちらかというと、インプットが足りていないと感じる時のほうが辛いかもしれません。
こうして来る日もくる日もアウトプットとインプットを繰り返しているのです。
2.なぜ細部まで可視化する必要があるのか?
大型作品や大型美術というのは近距離で凝視するものではありませんが、私たちは細部まで手を抜くことはありません。「神は細部に宿る」という言葉がありますが、実際には映像に映らない部分であっても気を配って施工していきました。
例えば、今回の「Honey Roasted Chicken」の背景では、桜の枝の配置をする際に、どの程度間隔を開けたら美しいか、引きで見たときに自然な情景かどうかなど、細やかな調整をしながら施工を行いました。自然の情景にはシンメトリーなものは一つもなく、アシンメトリーであって、どこまで自然に近づけることができるか、感覚を研ぎ澄ましながら配置していきます。
色とりどりの花畑部分は実際に施工場所に花畑がある様子を再現できるように注力しました。花と草花の配置は適切か、花が多すぎてもダメ、草花が多くても自然ではありません。桜の配置とはまた異なったバランス感覚を意識しながら配置していきます。
そして、花畑の空間には広がりがあるか、花と草花がぎゅーっと寄せ集まっていると広がりがでませんよね。ふんわりとした柔らかさとしなやかさを演出していきます。メイン花材であっても添えた草花であっても、凜とした存在感を醸し出す必要があります。小花や大輪系のお花1輪1輪がお互いの存在を引き立てあいながら調和する様は、私たち人類の理想とする姿かもしれませんね。花や植物は言葉を発することはなくとも、その存在から私たち人間にとって大切なメッセージを伝えるメッセンジャーなのです。
施工する時は、実物の花のデザインに加えてカメラでの画角を確認しながら作業を進めていきます。映像の中の花とは、施工物の完成度に加えて、画面の中で花が生きているか、それも考えながら進めていきました。
そして私たちは、ついに戦地の花の丘を完成させたのです。
3.花に込めたメッセージ
この映画に込められたシンプルなメッセージを最も的確に伝える装花とは何か?というテーマで、あらゆる視点から考察を重ね、デザインを作り込んでいきました。
装花の大きな特徴としては、自然な花の咲く丘をつくるということ。 華美な演出ではなく、「自然な情景」を再現することに拘りました。 しかしながら、「自然な情景」でありながら、自然界には存在しない装花であるという点も意識をしました。 映画の中に登場する美しい花の丘は自然界には存在しないのです。 この装花の最大の特徴としては、「花を用いてメッセージを放つ」という点にあります。 映画の撮影地である日本らしさをデザインの中に織り込んでいきました。
今回使用した花材は青い花を中心に選定しました。
例えば、兵士の足元にちらっと映る小花。この花は「わすれな草」と言います。わすれな草は、英語では「Forget me not」という名前です。 「真実の愛」、「誠の愛」、「私を忘れないで」という花言葉があります。繊細で美しいわすれな草は「私をわすれないで」という花言葉に表現されるように、離れ離れになる人への想いや大切な人への気持ちを視覚的メッセージに込めました。
兵士たちが自国に残してきた家族たちからのメッセージとは…?
家族や友人それぞれの想いはこのわすれな草の1花1花に表現されているのです。
わすれな草はとても小さな小花なので、兵士が踏みつけるシーンでは目立たないため、このシーンでは青いデルフィニウムを採用しました。
兵士が踏み潰す花と足元に映る小さな小花は青と決めていました。戦地という極限の精神状態の中、兵士が冷静さを取り戻す、そのシーンにふさわしい色は青であると解釈したのです。
自然界には天然の青い色素というのは非常に少なく、その代表的なお花がデルフィニウムです。色の持つ視覚的効果を最大限利用するには目の覚めるような青いお花が最適だと考えました。
映画背景の多くを占めるお花は、日本の代表的な花、桜です。この映画は日本から世界へメッセージを放つことを目的としています。撮影時期が4月だったこともあり、どうしても使いたかった花材の一つです。
日本の代表的な花である桜を背景に使用することの意味とは、桜は日本の品格を表すシンボルとして、美しさを託された国花であるゆえです。
桜の花が満開に咲き誇る美しさは「精神美」を想起させます。
桜の花言葉自体も「精神美」、「純潔」なのです。
「精神美」という花言葉は桜が日本の国花であるという位置づけから、日本国、そして日本人の品格を表すシンボルとして、美しさを託された言葉だと推察されています。
西洋では桜は「spiritual beauty(精神の美)」と「a good education(優れた教育)」という花言葉があります。
日本、西洋ともに、美しさ、はかなさを連想される桜には、桜が満開になった時の優美な姿、そして散り際の潔さ、その風景に表面だけではなく芯の通った内面の美しさ、散りゆく姿のはななさを感じさせます。
ピンクという色もまた、人の心を映し出すうえでふさわさいい色合いと言えます。桜の柔らかいピンク色が人の心を取り戻すというシーンの中で温かみを与えているのです。
もう一つ今回使いたかった花材はダリア ・カフェオレです。ダリアの花はエレガントで迫力はあり華麗な魅力があります。「優雅」、「気品」、「華麗」、「威厳」という花言葉のあるダリア は、言葉にならない思いを伝える時に適したお花です。多くの人を魅了するダリアの美しさは、人の心を引き寄せます。戦地で心を失いつつある2人の戦士が、お互いに銃を向けあう究極の緊張感の中、心に深く閉じ込めてしたまった故郷や家族への思いに、ダリアの花はそっと寄り添うのです。
「Honey Roasted Chicken」の 装花に使用したカラーはブルーをメインとした、イエロー、ピンクの3色を選定しました。 この3色は、世の中に存在する全ての色を構築する要素となっています。
私たちフラワーアーティストチームは、色を用いて、どのような未来も変幻自在であるというメッセージをこの短い映画の背景に込めました。
本来は戦地には存在しない花の丘を私たちアーティストチームは創り上げたのです。

ダリア・カフェオレとデルフィニウム を使った大型美術
4.戦地に花を生けることの意味
ふるいち監督から「 Honey Roasted Chicken 」についてのメッセージ
一般社団法人フィルムジャパネスク ふるいちやすし監督より
「Honey Roasted Chicken」は戦争映画ではありません。兵士たちが人間に戻る瞬間を描いた映画です。
戦地に赴く兵士たちには、それぞれの生活や日常があり、愛する人がいる。戦地ですら爆撃で破壊される前は花の咲く丘だったはず。それを表現するためにフラワーデザイナーを起用し、丘を美しく彩ってもらいました。
逆に兵士にはスタイリストとヘアメイクアーティストにより、リアリティを求め、強いコントラストを作り出したのです。私たちはこの美術スタッフと多くの時間を費やし、理解を深め、このシンプルな映画にふさわしい舞台を作りあげたのです。
この記事はMilanoの映画祭で発行されたマガジンに掲載された文章です。

監督は役者や制作との対話を大切にされており、
コミュニケーションをとりながら制作を進めています。
「Honey Roasted Chicken」は、2024年、モナコ国際映画祭 Monaco International Film Festivalで最優秀作品賞Angel Peace Award受賞、イタリアミラノの国際映画祭Milan International Filmmaker Festivalで4部門受賞、北米「Hollywood North International Film Festival」オフィシャルセレクションに選ばれました。世界の映画祭という舞台でこの映画が高い評価を得たことはとても喜ばしいことであるとともに、監督をはじめ役者、制作陣、皆の思いや情熱により共創された作品になりました。
あなたはどのような未来を創造するでしょうか? 家族や友人、愛する人とささやかな幸せのある未来でしょうか?それとも戦うということで人々が犠牲になった未来でしょうか? 一人一人の選択が世界を大きく変える、その一歩となるよう、この映画を通じて、世界中があらゆる垣根を越えて、人としての大切なことに気づくきっかけとなることを願っています。

5.Special Thanks
Special Thanks
最後に今回短編映画「Honey Roasted Chicken」の映画美術制作に携わってくれた大切なメンバー1人1人に私からメッセージを書いてみました。
Tomoaki Iwai
「Honey Roasted Chicken」は2人にとって反省点の多い作品だったと思います。今回の反省点を踏まえて、次回作「CITIZENs」は弊社アーティストチームにとって最高の作品に仕上げていきましょう!!
これからもお互い切磋琢磨しながら成長していきましょう♪
これからも現場の総責任者として才能を発揮し続けてくださいね!!
Gaku Chinen
カンボジアでのイベントやFlower Art Award2024に引き続き、山梨での撮影おつかれ様でした!
初めての映画の現場、とても大変なことが多かったと思います。絵の仕事の合間に過酷な現場に入ってくれて本当にありがとう。
1つ1つの経験を糧に、これからもアーティストとフローリストの二刀流でどんどん才能を発揮してね!!知念くんは自分が思っているよりずっと高い能力とポテンシャルを持っています。弊社の最重要メンバーとしてこれからも大活躍してくださいね♡世界中で一緒にアーティスト活動していきましょう!!知念くんの未来を誰よりも楽しみにしているよ♡
Shinichi Fujihira
安定のしんちゃん!!みんなのムードメーカーで自分から気付いて動いてくれていつも頼りっぱなしですね。毎回ありがとう♡
安心して仕事を任せることができます。帰りの運転ちょっぴり怖かった笑
独立して忙しい日々だと思うけどこれからもどうぞよろしくね!!
Tomoya Seki
ともちゃんのサバゲーの知識大活躍でしたね!!タクティカルベスト快く貸してくれてありがとう。日差しが強いからと日焼け止めを持ってこようとしてくれたり、細やかな気配りをしてくれてありがとうね♡ともちゃんのさりげない優しさにいつも感謝です。Thank you my brother.♡
これからも姉さんのお世話よろしくね笑
Yudai Yoshida
力仕事率先してやってくれて本当にありがとう。お花のメンテも専門的な知識をいかして、的確なケアをしてくれました。吉田くんの丁寧な対処があったおかげで撮影中綺麗な状態を維持することができました。
車の中で寝るのしんどかったよね汗ごめんね。次回の撮影は泊まりでいきましょう!!これに懲りず引き続きよろしくね♡
大好きで大切なメンバーのみんな、監督をはじめ、プロデューサー、この映画に関わったスタッフさん、そしてこれから「Honey Roasted Chicken」をご覧いただく世界中の方々へ…
愛と感謝の気持ちを込めて。
それでは次回のブログでお会いしましょう♪